kmn.11  中村明日美子「鶏肉倶楽部」

FO COMICS 大田出版 全1巻

* 鶏肉倶楽部    * マー様にささぐ    * MEQUE MEQUE   * コーヒー砂糖いり恋する窓辺   * 海のパイパイ

* おたく2000    * ミドリ色のすべすべした美しい身体    * おまけ


の、8つの短編が入った本。



エロい、グロい漫画と言えると思うが、他の本当にエログロい漫画に比べたら、そんなでも(作品のレベルでなくてね)ないから、不快にならずに読める。

が、感じ方は人それぞれだと思うので・・

でも、わたしとしては、中村さんはエロいシーンを使わず(若しくは今より抑えて)描いてくれたら、凄くわたしのストライクゾーンど真ん中でいいのに、

とは思います。何しろ、絵が美しい。

萩尾望都の「
ビアンカ」のところで、「花の24年組の人たちの絵が素晴らしい」と書いたが、それとは全然違った意味での美しさだ。

絵の世界観も美しいんだけれど、それよりなにより、わたしの愛してやまない「様式美」というものの凄さがある。

極端に曲線的で、アールヌーヴォー調(*1)というか、
クリムト(*2)やビアズリー(*3)が好きそうだ、と推測したくなるような絵柄だ。実際、「マー

様にささぐ」33ページには、クリムトの「接吻」をモチーフにした絵があるから、やっぱ好きなんだろう。読んでいて絵にうっとりしてしまう。ストーリーは

置いといても浸れる漫画。わたしもさらさらと、こういう絵が描けたらなあ。


  *1 
アールヌーヴォー・・・ 19世紀にドイツ、フランスなどヨーロッパで流行した美術様式。主には、装飾美術を指すのだが、広い意味では

                    絵画や工芸や建築なども含まれる。有機的な曲線を多用するのが特徴。

                    アールヌーヴォーは当時ヨーロッパで流行していた日本美術・ジャポニスムの影響を受けているといわれる。
 
                    代表的なのは、エミール・ガレ(ガラス工芸)、アルフォンス・ミュシャ(絵画、ポスター、デザイン)、

                    オーブリー・ビアズリー(画家)、グスタフ・クリムト(画家)、オスカー・ココシュカ(画家)、アントニオ・ガウディ(建築家)など。

                    Art Nouveau はフランス語で、「新しい芸術」という意味。 


  *2 
グスタフ・クリムト・・・Gustav Klimt, 1862年7月14日 - 1918年2月6日

                   オーストリアの画家。美しい官能感と、死と隣り合わせのような緊迫感のようなものが同時に込められたようなテーマの

                   絵が多い。黄金時代の作品には、金箔が多く使われ、神々しい神話の世界のような感じでもある。
アールヌーヴォー

                   作家らしく、日本の琳派の影響を感じさせる作風である。代表作は、「ベートーヴェン・フリーズ」や「接吻」など。

                   わたしはメジャーなところではベートーヴェンフリーズと、ダナエが好きです。


  *3 
オーブリー・ビアズリー・・・Aubrey Vincent Beardsley, 1872年8月21日 - 1898年3月16日

                        イギリスの画家。官能的な作風。
アールヌーヴォーの代表的な画家。

                        オスカー・ワイルドの「サロメ」の挿絵が有名。

                        わたしの大好きな画家の一人。



一応この項のタイトルとして「鶏肉倶楽部」を書いているけれど、この本に入っているどの作品も面白い。「海のパイパイ」は、絵もストーリーもわたしに

はちょっと行き過ぎで楽しめないんだけれど。

鶏を愛してしまった男だったり、ドラァグクイーンに運命を感じる童顔女だったり、サーカスの曲芸師と良家のお嬢様の身分違いの恋だったり、かわいい

女の子が好きな奥様がいたりとか、海で裸の女に襲撃されたりとか、漫画家のやる気を出させる為に体を提供するアシスタントが来たり、秘境の地の

美しい青年に魅せられてしまった教授の運命だったり、それぞれは短いんだけれど、テーマ的にもストーリー的にも濃い。


一番好きなのは、「コーヒー砂糖いり恋する窓辺」。わたし好みに美しいし、奥様の気持ちに共感できる(こんなことしませんけどね)。この、フエちゃん

(奥様に気に入られてメイドになる。)の色気は凄いなあと思うのだ。特に髪を切った後のシーン!

こういうくらいのエロい漫画(という定義が難しいが)とか、後ボーイズラブ系の漫画って、楽しめない下らなさしか感じられないものが多い。あくまで

わたしにとってですが。けれど、そういう漫画を描いてる漫画家の中に、もの凄く美しい色気を絵で描ける人がたくさんいることは、もっと評価したい

と、個人的に思っている。凄く「生身の人間感」を感じる。勿論、全員ではないけれど、その他のタイプの漫画家より、割合で言えば多いと思うのだが、

どうだろうか、みんなはどういう風に思うかしら?」

中でも、中村さんの絵は特に素敵だと思うので、ここに取り上げたのである。


ただ、もっと凄いのも含めて、エロ漫画とかグロテスクな表現が多様される漫画とか、ボーイズラブ系の漫画とかを描く人の絵って、時として凄く分かりづらい。

人の区別が付かなかったり、それはどこの部分ですか?というような絵だったり。そういう部分は少々あるかな。上記のような他の作家の人に比べたら

かなり少ないので、わたしも好きになれるんだけれど。


でも、一番凄いのは、おまけの「
トースト考」が一番面白い。これは、中村さんの推奨するトーストの食べ方について語られた、たった2ページの漫画

なのだが、最初のコマから最後のコマまで絵も文章も内容も完璧!!しかも塩トーストめちゃくちゃうまい!!!みんなもやってみな.。